ちょっといっぷく 第59話
第59話 広告とチラシ
史上最低の遊園地。「だまされたと思って、いちど来てみて下さい。きっとだまされた自分に気づくはず。楽しくない遊園地の鏡として有名な豊島園は、ことしも絶好調…」
なんだこりゃ、開き直りとも思えるこの広告は、ユニークなタッチで知られる豊島園(1990年)4月1日付の広告。ご存知エイプリルフールがいわせた前代未聞の超変化球キャッチフレーズである。
豊島園をもう一つ。
俺ってあがり性なんだ。-花火 (1993年)
ポスター一面真っ暗闇で『俺ってあがり性なんだ。-花火』というキャッチフレーズと『毎週土曜日としまえん花火大会』の小さな文字だけがあり、絵はなに一つない。
以上の2例は『あの広告コピーはすごかった!』(安田輝雄著・中経出版)から引用した。この本には、ほかの優秀コピー例が収録されている。
業者は「広告は出会いが勝負、一瞬のうちに、広告読者をキャッチする」と述べている。
さて、毎朝新聞にはさまれて家庭に届くチラシ。スーパー、ディスカウントストア、ドラッグストア、不動産、健康食品、求人等々の折り込みチラシは、暮らしにもっと身近な価格情報源だ。
澤田求は、チラシを収集して分析する会社㈱チラシレポートの社長である。この人の書いた『チラシで読む日本経済』は、チラシに興味のある人にとっては大変参考になる。
1998年から99年まで、折込チラシは全国平均で12%も伸びているそうだ。全国で年間一世帯あたり6343枚という驚異的な数字である。売上は4500億を超え、日本の総広告費のシェア7%を占めるという。製作費、印刷費を含めればすでに1兆円産業といわれる。
この本によると、新聞はどちらでもいい。よく行く店のチラシが必要、チラシだけ入れて欲しいという読者もあるそうだ。
チラシは、その店の夢を出すもの、そこで買い物をすれば楽しいだろうなという気持ちを駆り立ててる。つまり広告の基礎は人間心理学というわけだ。
流通業の王者、ヨーカドーは、今までウチはよそ様のようにチラシを出さなくても、お客はくるんだという姿勢であった。鈴木敏文社長の『成功体験の見直し』という奴で、チラシで優位性を出せと方針転換、15%の売上増になった話もある。
チラシはまだまだ可能性があるのだろう。‶1円でも安い”自分の店を持つことを欲しいている。と述べている。
不景気のときは、折込のような、ミクロな広告は強い。いい商品であれば値段をそうまで下げなくても消費者は支援してくれるということだろう。
澤田社長はチラシについてポイントは『Zの法則』であるという。
横書きの文章の場合、左から右へ、上から下へみる。そこで、チラシはZ字形に目玉商品を配置するのが鉄則だ。左上に目玉であるすき焼き用の牛肉の特集を組むと、その右に牛肉と抱き合わせで売りたいネギやシラタキを置くといった具合。下辺の左右には、次に目立たせたい商品を配置する。
『うたい文句』
「大感謝祭」「大出血祭」「ザ・セール」などの見出しは単なるうたい文句と思え。だが、1年に1回の「創業祭」や、同じく2回の「決算セール」だと通常の売り出しより安い。個々の商品に「日替わり」とある場合は狙い目だ。「タイムセール」や「数量限定」の商品はさらに安いが、品切れも多い。
生き残りをかけて、業者同士の競争は益々激しさを加える。「消費者はよけいなものを買わなくなった。メーカーもスーパーより難しい局面に入った。」と澤田社長は言う。
最後に、アイデアのヒントになる話を2つ提供したい。
阿蘇五岳のふもと、熊本県阿蘇郡白水村にある銀河高原ビールのお土産コーナーで、変わった名前のおみやげを見つけた。その包装紙のデザインが面白い。
包装紙には大きな字で(それがお菓子の名前)
『あそびに行かせてくれてありがとう』
漫画みたいな人物が「おみやげ」の箱を前に両手をついている。そのずがたがなんとも滑稽で微笑ましい。
そして小さな文字で
この度、無理を承知で遊びにいかせてもらいました事、大変深く感謝しております。こもお土産をもちましてお礼の言葉とさせていただきます。ありがとうございました。
お土産をもらうのは、会社の上司か、家族の者か思わず笑いだしたが、そのまま真似すると商標登録出願中だそうだから要注意である。
もう一つは新聞でみた記事である。
『金の成るハッピーの木』の話。
手のひらにのる小さな鉢で薄いピンクの花をつけ名前は「花月」。380円で「家内安全」「商売繁盛」などとパンフレットに書いているのだ。要するに「幸福」を招き入れようというわけだ。岐阜県のサボテン農園が秋から冬にかけてこの鉢植えを出荷しており、昨年は6万鉢、今年は10万鉢を超える見込みだという。
追い詰められれば人間いくらでも知恵が湧くものだ。
(前島原商工会議所会頭)
2003年4月1日